夕暮れになると、景色の輪郭が少しずつやわらいでいく。
山は山としての影を失い、田んぼと町並みの境もゆるんで、色だけがゆっくりと混ざりはじめる。
高い場所から見たその光景は、地図でも写真でもない、ひとつの面としてそこにあった。
海の青に残った光が、田んぼの水面をかすかに照らし、屋根の列が波のように続いていく。
昼間は別々に見えていたものが、夕暮れの光の中では同じ色をまとい、境界という言葉がいらなくなる。
山の端と家の並び、畑の区画と道の線。それらが一枚の布のように重なり合い、じわりと溶けていく。
鳥居も、石段も、集落も、地上ではそれぞれの場所として存在していたはずなのに、
空から眺めると、それらはひとつの暮らしの模様として静かに並んでいた。
夕暮れは長くは続かない。
数分のあいだだけ現れる薄桃色の時間が、風景全体をそっと同じ色で包む。
そのわずかな瞬間を、空の上から静かに見届ける。